砂上工場

砂上工房(http://citaatelier.web.fc2.com/)を構成するメンバー3人のブログです

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告

千雨はプレインズウォーカーになったようです。その4

千雨はプレインズウォーカーになったようです。その4


 放課後の学生というのは忙しい。部活や友達と出かけることなど目白押しだ。
 三十分もしたら教室に人が居るのは稀である。
 千雨もその例に負けず、放課後は、ブログの更新のために、いの一番に帰るのが日課であった。
 彼女のその行動を知るものが居たら、きっとたずねていただろう。
 どうして、教室にいるのと。
 珍しく、彼女は教室にいた。かといって、ずっと残っていたわけではない。
 その証拠に、彼女の服はいつもの学生服ではなく、私服であった。
「長谷川さん。どうしました?
 あ、忘れ物でもしたんですね。長谷川さんはきちっとしているのに、以外と抜けているんですねって言っても聞こえませんよね……」
 そんな彼女に声をかけてくるモノが一名。
 その声は人に聞こえないものであり、いつもの彼女なら無視しただろう。
「忘れ物をしたんじゃなくて、相坂。お前と話に来たんだ」
「あ、忘れ物じゃなくて、私と話しに来てくれたんですか。
 そうですか。え゙?」
 が、今日はその声にこたえる。その瞬間、話しかけてきた相手、相坂さよは固まった。
「み、見えるんですか? 私が」
 震える指で、彼女はふるふると自分を指し、千雨は大きくうなずいた。
「幽霊になって、苦節四十年。やっと私のことを見える人が」
「感動に浸っているところ、悪いんだが、お前は幽霊で会っているのか?」
「あ、はい。正確には自縛霊という奴でして、何十年もこの教室に縛られています」
「自縛霊って……」
 千雨は上から下までさよを眺めた。陽気そうに見えるその姿は、自縛霊というイメージからは程遠い。その辺を歩いているお気楽そうな学生と一緒である。
「本当か? それ?」
「ええ、この中等部からはまったく出られませんから、分類的には間違っていないはずです」
「と言うことは四十年もこんな場所に居るわけだ。
 さっき、やっと私が見える人がって言ってたけど、他に見える奴は本当にいないのか?」
「ええ、本当に私、存在感がうすくて、どんなに高名なお坊さんにも見えないくらいで……」
「なんかそれ、おかしくないか?」
「何がです?」
「だって、誰にも見えないんなら、どうしてお前の名前が名簿に載っているんだ?」
「あれ? そういえばどうしてでしょうね?
 考えたことはありませんでした。
 ああ、でも私の席に座ると背筋が寒くなるって言われていますので、きっとそのせいですよ」
 あははとさよは笑っているが、千雨はちっとも笑うことができなかった。
 きょろきょろと周りを見ては、誰か居ないか確認をしている。
「長谷川さん。そんなことより、別の話をしましょ。
 私、友達通しの話というものに、あこがれていたんです。
 好きな食べ物はなんですか? ああ、テレビの話なんかもいいですね。
 それからそれから」
 人と話せるのが、本当に楽しいのだろう。さよは次々と話題を示してくるが、千雨はそれに答えようとはしなかった。
「相坂、場所をかえるぞ」
 自分の身を守るということが、最優先事項だったからだ。


 場所は変わって校舎裏の雑木林。
 本当は、麻帆良の郊外まで行きたかったのだが、自縛霊という性質上、さよはこの校舎からあまり離れた場所にいけないらしい。そんな拘束条件の中、いろいろ悩んだ挙句に選んだのが、この場所だった。
 うっそうと木々の生い茂るそこは、どこか不気味で何かが出てきそうだ。これから霊と話しますという条件なら、もってこいの場所かもしれない。
「ところで千雨さん。どうしてこんな場所に来たんですか?」
「いや、誰かに見られたらいやだなと思ってな」
 木の壁に隠れるように士ながら、千雨はさよに言葉を返した。
「誰か? ですか?」
「そうだ。
 相坂、知っているんなら教えてほしいんだが、不思議な奴を見たことないか?」
「不思議なですか?
 んー、そう言われてもなかなか思いつきませんね。
 一番不思議な人は千雨さんですし」
 ぐさり。
 擬音化すれば、そんなところだろう。
 言葉という名の刃が千雨に突き刺さった。マンガであったのなら、矢印つきの吹き出しが彼女の身を貫いていたところだ。
 一番不思議なのは、千雨さんですし。
 言葉が頭の中でリピートする。
 分かってはいたが、あえて目を逸らしていた。わたしは普通だと自分に言い聞かせていたが、他人から改めてそう指摘されると物凄く傷つく。
「ああ、どうしました。急にうずくまって
 お腹が痛いんですか?」
「い、いや大丈夫だ。
 私以外に、誰でも良いから頼む」
「なんでそんな、血を吐きそうな荒々しくも切ない声色で。
 というか、足もプルプルと震えてますよ」
 それは、お前の指摘のせいだと言ってやろうと思ったが、とめた。その行動は単なる八つ当たりであることが分かっていたためだ。
「ああ、今思い出しました。
 そういえば、エヴァンシェリンさんって、今年もクラス一緒なんですよね。
 これで、十二年連続です」
「十二年?」
 千雨は眉をひそめた。千雨の年齢は十二歳。今年で十三になる。
 十二年一緒ということは、ゼロ歳から一緒のクラスだということだ。
「エヴァンシェリンさん、実は十二年も中学生をやっているんです」
 千雨の視線に込められた意味を正しく理解して、さよは補足する。
「その間、マグダウェルは成長したりとかは?」
「してませんね。覚えている限り、ずっとあの姿のままですよ」
 あいつもプレインズウォーカーだったりするのか?
 頭の中に疑惑が浮かぶが、ならばなぜ中学生という役割をこなし続けているのだろうか?
「マグダウェルの友人はそれを疑問に思ったりとかは?」
「さあ? みなさん中等部を卒業してから校舎に来ませんからね。
 それ以前にエヴァンシェリンさんが人と話している姿を見たことがありません。
 例外としては、高畑君くらいでしょうか?」
「高畑君って、高畑先生のことか?」
「ああ、すみまえん。同級生だったときの癖で。昔、中等部が男女共学だったときに一緒のクラスだったんですよ。
 誰とも話さないエヴァンシェリンさんも高畑君だけは別でして、一時期噂になったほどですよ。
 付き合っているんじゃないかって。
 今も、屋上で話している姿をたまに見かけますからね」
 千雨は頭の中の危険人物名簿に二人の名前を付け加えた。
「ところで……」
「ああ、なんだ?」
しばし千雨は思考にふけっていたが、さよに呼びかけられ、意識を目の前にもどした。
「千雨さんってなんですか?
 もしかして、すごい霊能力者だったりします?」
「いや、私はなんというか……
 その、魔法使いだ」
「ああ、千雨さんも魔法生徒の方だったんですか」
「魔法生徒?」
「ええ、あんまりよく知らないんですけど、魔法使いの生徒の人です。
 去年まで一緒のクラスだった高音さんもそうでした。
 あ、でも、それを聞くって事は、千雨さんは違うんですね」
「わたしはもぐりみたいなもんだ。だから、あまりここの魔法使い達に知られたくなくてな。
 頼むよ、わたしのことは誰にも言わないでくれ」
「ああ、なる程。冬木市の衛宮さんみたいな感じですか」
「おい、ちょっと待て。例えとしては合ってるが、どうして霊で未成年のお前がFate/stay nightなんて知ってる?」
「私、読書が趣味で、コンビニで立ち読みをしている人の後ろから読ませてもらってるんですよ。
 ところで、どうして未成年だと知らないんですか?」
「それは、ええと……」
 千雨は言葉に詰まった。
(言えねえ。原作は十八禁ゲームだと)
「と、ともかくちゃんと黙っておいてくれよな。
 あと、教室では、話しかけないでくれ、誰が見ているか分からないし。
 時々、こういう感じでなら話し相手になるからさ」
 結局、千雨がしたのは、言葉の勢いでごまかすということだった。もっとも、それは効果覿面だったらしい。
「ほ、本当ですか?」とキラキラそた瞳でさよが千雨を見つめている。
 その純粋かつ幸せそうな瞳に、自分が酷く汚れて見え、心に何かがズシリと突き刺さった。
スポンサーサイト
  1. 2012/01/03(火) 13:46:52|
  2. 千雨はプレインズウォーカーになったようです。
  3. | トラックバック:2
  4. | コメント:5

千雨はプレインズウォーカーになったようです。その3

千雨はプレインズウォーカーになったようです。その3

 入学式は問題なく終了した。
 あえて、他の麻帆良市街の学校と千雨の入った中等部とで違ったところといえば、学園長がそこに居たことだろうか。
 麻帆良市街には知っての通り、数多の学校がある。しかし、その頂点にたつ学園町は一人だけだ。
 入学式などの各イベントが重なったときは、学園長はどこか一つの学校にしか出席できない。
 今回はたまたま、中等部に順番が回ってきたということか。
 普通、組織の長の話とは長ったらしいものだが、この学園長はそうでもないようだ。中身のある話をすっきりとした尺で話してくれ、うんざりはしなかった。それよりも新田という生活指導の先生の方が、これからの中学生活に対する心得なんていう堅苦しい話をしていたため、疲れた程だった。
 ともかく、先生方の話を聞き終えると、体育館から自分達の教室へと移動するのだが、教室に入りクラスメート達をじっくりと観察できるようになったとたん、千雨は頭を抱えたくなった。
 留学生が多いのは、まあよしとしよう。指導する側としては、彼女達を集めたほうが、指導もしやすいことだろう。そのクラスにここが選ばれたと考えればすっきりする。担任もハーフっぽいからそのことが考慮されたのだろう。
 そう、そこまではいい。
 千雨は左前方にある席へと目を見やった。
 そこは空席のままで、誰か人間が座る様子は確認できない。人間は……
 よくよく見れば、薄透明色の影がそこには居る。みんなが真新しいブレザーの制服を着ているにもかかわらず、その影だけはセラーの制服を着ていた。普通、体が透き通っている人間など居ない。あえているとすれば、それは幽霊だ。
 ……万歩譲って、幽霊が居るのはいいとしても、どうしてその幽霊の名前が出席名簿に載っているのだろうか?
 他の人には見えなくても千雨には見えていた。
 相坂さよと呼ばれた瞬間に、返事をしながら手を上げて、必死にアピールしているその姿が。
 担任の高畑に気づいてもらえず、肩を落としているところまでばっちりだ。
 貧血でふらりとしかけたが、何とか気合で乗り切った。初日から悪目立ちはしたくない。
 他にもこのクラスにはおかしいところがある。彼女はちらりと後ろの席を見た。
「なにか?」
「いや」
 視線に気づき、ピクリとも表情を変えず、彼女に声をかけられるが、なんでもないとすぐに視線をそらした。
 なあ、どうしてみんな気づかないんだ?
 絶対におかしいだろ?
 後ろに座っている奴、どう見てもロボットじゃねえか!
 認識阻害がかかっていたとしても、彼女がちゃんと人間に見えているのは酷すぎるぞ。
 彼女の耳には次のようなクラスメートのおしゃべりが届いていた。
「ねえ、あの子。緑色なんて不思議な髪の色してるね。
 染めてるのかな」
 染めるも何も、もとからあの髪の色は天然じゃねぇだろ。どう見ても人工物だ。
「あの耳飾、ウサギみたいでかわいいです」
 確かに、件のロボットの両耳にあたる部分からは天に向かって白いものがついていた。
 しかし、どう見たら、あれがウサギの耳に見えるのか。どう見てもあの突起は金属だろうが。ふわふわの毛で包まれたウサギの耳とは断じて違う。
 もろん千雨からは、そんな突っ込みは一言も言わない。
 言ったらむしろ、差別は良くないと槍玉にあげられるのは、経験上理解しているからだ。
 ストレスで胃に穴が開く前に、早く終わることを切に彼女は祈った。
  1. 2011/03/20(日) 11:13:35|
  2. 千雨はプレインズウォーカーになったようです。
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:4

千雨はプレインズウォーカーになったようです。その2

とりあえず、続きがかけたので短いですけど、のせておきます。

千雨はプレインズォーカーになったようです。その2

平穏とはすばらしい。
千雨は麻帆良行きの電車に揺られながらそんなことを考えた。
思えば、この春休みは散々だった。
異世界転移なんておかしなことを体験し、そこで出会った男に魔法なんて非常識な技術を7つも学ばされたのだ。
だが、そんな世界も昨日でおさらばだ。中等部への入学という区切りで幕を下ろした。正確に中等部への入学は明日からだが。
今日は寮への引越しである。
とは言っても荷物の大半はすでに運び込まれている。自分の手で持っていくものは手荷物くらいだ。
彼女は手提げの中からノートパソコンを取り出した。薄さと軽さを売りにした今春発売の最新機種であるそれは、入学祝に両親がくれたものである。
今しがた思いついたブログの内容を打ち込もうと、キーボードへ手を添える。そして、人差し指を軽く上げるのだが、そこで彼女の動きは止まった。
別に何が起きたというわけではない。あえて言うならば、電車が麻帆良の市街地へと入ったくらいだ。
……表面上は。
プレインズウォーカーとなった時に目覚めた感覚が千雨にアラートを発する。ここは、誰かのテリトリー内だ。気をつけろと。
彼女はゆっくりと、不自然にならないように気をつけながら電車の外へと目を向けた。
上空にはいつもどおりの空が広がっているはず。期待を込めて見上げたそこは、薄緑色の膜に覆われていた。
それが何なのか、千雨にはすぐに分かった。実際に見るのは初めてだが、すぐに理解する。
結界。
男に詰め込まれた知識と照らし合わせて、彼女はそう判断する。
誰が? 何のために?
疑問が頭に浮かんでくるが、まずは結界の効果のほうが重要だ。
結界の中には、内部の人間を衰弱死させるものもあると聞く。
体になんらだるさを感じないところを見るとそういう類のものではないようだが、油断は禁物だ。
彼女は結界の術式を読み解こうと目を凝らす。残念ながらその魔法の構成は彼女の知るものとは違っていた。
しかし、プレインズウォーカーにとって、構成の違いなど些細なことだ。千雨達の目は術式に関係なく、その本質をつかむことができる。
麻帆良を覆う結界は様々な効果を持て居るらしい。
その中でも多くのリソースを割かれているのは認識阻害か?
そのことが千雨の中に長年渦巻いていた疑問をすとんと解消する。
何を言っているのか分からない。
千雨はその目を思い出す。
困惑する目、馬鹿にし蔑む目、おかしな人間を見る目。
そのトラウマを思い出す。
ちくしょう。そういうことかよ。
彼女は理解した。あんな目で見られていた理由を理解した。
彼らが、そんな目をしていたのは当然のことだった。
彼らは別段特別に大らかで何も考えていないという訳ではない。普通の感性を持っていた人間だったのだ。
そう、普通の人間が魔法で無理やり、疑問を持たない、なんでも許容してしまう人間にされていただけなのだ。
そして、この結果を張ったのは……
怪しいと思われる人物をピックアップする。
異常な身体能力を持つ広域指導員。
異質な技術力を持つ工学部。
そして、後は……
人ではないが、常軌を逸した大きさを誇る世界樹だ。
異世界には、歩き回る植物、ツリーフォークなる生物も居るらしい。
あの世界樹が思考を持ついう可能性も捨てきれない。
自分の世界に魔法がないなんて言ったことを今更ながらに間違いだったことに気づく。
彼女の知らないだけで、こんなにも近くに魔法は存在していたのだ。
そのことに気づいた自分はどうするべきか?
千雨は考える。考えるが答えは何もなかった。
いや、分かりにくいので言い直そう。何もないという答えが出たのだ。
別にこの結界を張ったものと対立しているわけではない。そいつに恨み言のひとつでも言いたい気持ちはあるが、ただそれだけだ。
自分に害のない限り、放置することに決める。
ただ、今からでも遅くないから、学校を変わることができないかと思った。
  1. 2011/03/05(土) 13:05:43|
  2. 千雨はプレインズウォーカーになったようです。
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2

千雨はプレインズウォーカーになったようです。

健介君がなかなか進まないので、最近書いた妄想をブログのほうにアップしておきます。
過度な期待はしないでください。

千雨はプレインズウォーカーになったようです。その1

 世の中には、いろいろな性格をした人間が居る。
 生真面目な者、不真面目な者。公平な者、不公平な者。
 それらの性質を、人の属性だというのなら、彼女、長谷川千雨は『常識主義者』という属性を持っていた。
 とりあえず、この『常識主義者』という言葉は辞書に載っていない。彼女の属性を簡潔に言い表すために作った造語だ。
 意味は、常識に合わせて物事を考え、進めていく者である。
 その彼女にとって、麻帆良という学園都市は色々とストレスの溜まる場所であった。
 学園都市というだけあって、住民のほとんどは学生である。内部の主要施設はほぼ学校と学生が寝泊りする寮。後は彼らの生活するための雑貨や食料品を売っている商店街程度であろうか。
 ここまでは普通、いやまあ、滅多にないような都市の構成ではあるが、常識の範囲内である。
 常識主義者の彼女にストレスをかけているのは、この麻帆良内の人間の気質であった。
 住民-生徒の性格がおおらか過ぎるのだ。
 学級崩壊なんてものが、ニュースで騒がれている中で、このことは喜ぶべきものなのだろうが、千雨にとって彼らのそれは度が過ぎているような気がしていた。
 何でも受け入れる性格。そう言ってしまえばよく聞こえるかもしれないが、彼女に言わせて見れば疑問を疑問としてとらえない、おかしな人間ばかりであった。
 突込みどころ満載の場面で、誰も不思議に思わずスルーする様に「おかしいだろ!」と何度突っ込みを入れそうになったことか。
 高層ビルも真っ青な世界樹の異常な大きさ。
 世界のトップアスリートを馬鹿にしたような広域指導員の身体能力。
 最先端技術の追従を許さない工学部の進みすぎた技術力。
 そのどれもこれもがおかしなことだ。
 事実何度かは口に出していたのだが、相手にはまったく理解されなかった。
 そのことでクラスメイト達と会話に齟齬が生まれ、微妙な雰囲気になってしまったのは、一度や二度ではない。
 何を言っているのか分からないという相手の顔。それを見るのがいつしか果てしなく怖くなった。
 故に、彼女はクラスメイトから次第に距離をとり始める。何を言っているのか分からない。そんな顔を直接見たくないために伊達メガネもかけた。
 繰り返すが、長谷川千雨は常識主義者である。
 故に、常識外の物事を異様なまでに拒絶し、距離をとる。距離をとるのだが……
 果たして、距離を置くべき異常に、自分自身が含まれてしまったときはどうすればよいのだろうか?
 千雨は、今でもあの時のことをなかったことにしたい。そうすれば、少なくとも自分は常識内の存在で居られたはずだ。
 時は、彼女が十二歳、小学校を卒業した春休みまでさかのぼる。
 


 何だこいつ?
 それが、長谷川千雨が目の前の人物を見て、はじめに思ったことであった。
 彼女の目の前にいるのは、癖の強い長髪を頭の後ろで束ねた男。
 男臭さがにじみ出る西洋系の濃い顔をしたその男が身に着けているのは、鉛色に輝くプレートアーマーだ。
 腰から剣をぶら下げて佇んでいるその姿は、さながらファンタジーなゲームの世界から抜け出してきた剣士のようだった。
 もっとも、剣士といっても騎士のような高潔な姿ではなく、傭兵のような薄汚れた感じであるが、コスプレーヤーだとしたら、レベルは間違いなく高いだろう。
 スッ
 彼は、池の中で尻餅をついている千雨へと手を差し出した。
「あ、ありがとう……ございます」
 千雨は、どもりながらも、お礼を言いつつ、その手を取り立ち上がった。
「珍しい格好だな。
 おい、嬢ちゃん。ここが何処だか分かるか?」
「何処って、もちろんそれは……」
 何かを言いかけて、千雨は言葉を止めた。彼女は、一度目を瞬かせた後、食い入るように周りの風景を見渡した。
 ここは、何処だ?
 彼女の目に映る風景は、彼女の知るどの景色とも違った。
 ありえないと彼女は心の中で叫び声をあげる。自分はさっきまで、実家の近くの公園に居たはずだ。
 ちょっと、足を滑らせて池に落ちて溺れかけたというハプニングはあったが、それがどうしてこんな見ず知らずの場所に居るのだろうか。
 現実には起きそうにもないことが、その身に起きていることを認識し、彼女の頭は混乱の一歩手前だった。
 彼女が『常識主義者』であることが、災いしているかもしれない。
 彼女の精神年齢が、実際の年齢よりも高くなければ、パニックを起こしていただろう。
「ここは、どこですか?」
 必死に自分の心を取り繕いながら、彼女は目の前の男に問いをかける。
 普通に出そうとしていた声は、彼女の意に反して震えていた。
「はは、まさかと思ったが、本当に成り立てか。
 やっかいな」
 対照的に男は、落ち着いた様子で、しかし困ったような顔で頭をかいた。
「答えてください!
 ここは、何処ですか!」
「そんな、大声出さなくとも、聞こえてるよ。
 まあ、その話は、先に服を乾かしてからでいいだろう。
 春といってもまだ冷える。さっさと火に当たれ」
 そういって、男は長指で自分の後方を指した。彼の指す先には、焚き木が赤い輝きを放っていた。
 千雨は、興奮した様子で、何かを言おうとしたのだが、男の言う言葉をもっともだと理解したのだろう。
 素直に薪の元へと近寄り、しゃがみこんだ。
「ぬれた服を着たままだと、風邪を引くぞ。
 ほれ、さっさと脱げ」
 百パーセントの善意からだろう。男は、そう言って千雨の服へと手を伸ばした。
「おい、やめろ。変態!」
 だが、十二歳といえどもレディはレディ。今まで敬語を使っていたのも忘れて、その手を振り払った。
「十歳にも満たない餓鬼が色気づいてんじゃねえ。
 そんな貧相な体を見て、興奮するほど落ちぶれちゃいねえぞ」
「貧相な体で悪かったな。それに、これでも私は十二歳だ!」
「十二歳?」
 日本人の顔立ちは西洋人から見て、おしなべて幼く見えるものだ。
 そのことから、男は千雨を実年齢より若く見積もったのだろう。訝しげな顔で千雨を上から下まで見た後に「譲ちゃん、ちゃんとメシ食っているか」と一言付け加える。
 もっとも、男にとっては貧弱に見えるかもしれないが、千雨はこれでも同年代の女子に比べたら、発育はいいほうだ。そのことを知ったら、果たして男はどのような反応を見せることだろうか?
 だが、千雨は生憎と男の反応には興味はない。むすっとした顔でソッポを向いた。
「はいはい、悪かったよ。譲ちゃんは立派なレディだ。
 さっきの疑問に答えてやるから機嫌直せよ」
 誠意のこもっていない謝罪に機嫌を直せる聖人君子が居るのなら、ぜひともお目にかかってみたいものだ。
 そして、もちろん千雨は聖人君子などというものではない。機嫌はもちろん良くはなかった。しかし、自分の疑問に答えてもらうというのは、彼女死活問題だ。
 嫌々というのが良く分かる様子で、彼女は男のほうを向いた。
「さて、譲ちゃんの疑問に答えるとな。
 ここは、譲ちゃんの世界とは違う異世界だ」
「異世界?」
「そう、譲ちゃんは転移魔法の凄い版で次元の壁を越えてしまったのさ」
「へー、異世界ですか。それは凄いですね」
 大真面目に話をする男。対して千雨のソレは酷くさめたものだった。
 言葉の抑揚がなく。コレでもかというほど棒読みである。
「お前、信じてないな」
「信じれるわけねえだろ。おっさん。
 魔法だの異世界だの、頭沸いてんのか?」
「あ、頭沸いてるって、お前そういう言葉は思っても言うんじゃねえよ」
「いい年した大人が、そんなこと言われる発言するんじゃねえよ」
「お前な、人がせっかく善意で説明してやってるのに。
 いったい、今の説明のどこがおかしいんだよ」
「全部だよ、全部。
 それはどこの漫画の話をしているんだよ。
 魔法なんて現実にあるわけねえだろ」
「魔法がねえって……
 まさか、譲ちゃんの世界って魔法がないのか?」
 千雨は答える代わりに冷たい視線を送った。
 それにより、男は悟る。
「そんな世界でも、プレインズウォーカーは生まれるもんなんだな。
 まあいい、譲ちゃん。だったらちょっと見てろよ」
 そう言って、男が取り出したのはナイフだった。彼はソレを指先に当てて引く。
 当然そんなことをすればどうなるかなんてものは日を見るよりも明らかで、男の指先からは血が出ていた。
「ちゃんと切れているだろ?」
 唖然としている千雨に、彼は傷口の血をぬぐうと千雨に見せる。すぐに血が荷気味出ているが、そこには確かに切り傷が存在していた。
「それで、これをこうするとだな」
 男がつぶやき始めた瞬間に、彼に向かって小さな光の粒子が集まっていく。あれはそれを一点に集めると、指先にあてた。
「これでどうだ?」
「ふさがっている」
 再び見せられた指先を見つめ、千雨は呟いた。
 彼女の言葉のとおり、彼の指先には傷一つもない。さっきナイフで切ったのが嘘のようだ。
 手品のようにトリックを使えるものではない。ならば、コレは本当に魔法というものなのだろう。
「いや、ちょっと待て。だったらここは本当に異世界ってことに……
 おい、おっさん。私はちゃんと帰れるんだよな!」
 千雨は男の服をつかむと揺さぶった。もともとの対格差だ。そんなことをされても男の体はびくともしないのだが、正直うっとうしい。彼は猫のように千雨の襟首をつかむと吊り上げる。
「落ち着け譲ちゃん。こっちにこれたんだ。
 そりゃ帰れるよ。まあ、譲ちゃん次第だがな」
「私、次第?」
「ああ、なんせ、ここにきたのは譲ちゃんの力だ」
「私はそんな力なんて」
「今まではなかったが、今はある。
 譲ちゃんはブレンズウィーカーになったんだからな」
「プレインズウォーカー?」
「譲ちゃんのように次元の壁を超えることのできる奴らさ。
 まあ、性格にはちょいと違うがな。ちなみにかく言う俺もプレインズウォーカーさ。
 さて、正確なプレインズウォーカーの定義だが、プレインズウォーカーの灯火を持っていて、それを覚醒させたのがそうだ。
 灯火を覚醒させるには、いろいろな方法があるんだが、命の危険や身内の死なんてものが大体の引き金だ。
 心当たりは?」
 あった。ついさっきのことだ。忘れるわけがない。
 今日、千雨は久しぶりに外に出た。春休みだからといって、一日中家の中に引きこもっているのもどうかと思ったからだ。最近つけ始めたブログのネタ探しのためでもある。
 千雨の家は、麻帆良の郊外にある。そこから毎日送迎のバスに揺られて麻帆良の構内にある小学校へと通っているのだ。
 来年からはより内側にある中等部に進学するため、寮に入ることになるだろうが、とりあえずその話は置いておこう。
 同じく麻帆良の郊外。彼女の住んでいる家の近くには、ちょっとした大きさの公園があった。あまり人のこなさそうな街外れにあるのに、これだけの規模の公園があるのは、きっと土地が余っていたからだろうと彼女は勝手に思っていた。
 園内に設置された自動販売機でジュースを買うと、ベンチに腰かけ、今日はブログにどのような内容をUPしようかと頭を働かせた。春の日差しが気持ちよく、ともすれば眠ってしまいそうだ。
 と、その時、春一番というべきか。突風が吹き、彼女の帽子が飛ばされる。風の中で翻弄される彼女の帽子は、流されるままに揺らめいて、やがて公園の中央にある池へと落ちた。
 幸い岸の傍。手を伸ばせば届かない距離ではない。落下防止用の柵を乗り越えて、彼女は池の麓に降り立つと、水面に浮かぶ帽子へと手を伸ばす。
 指先が、帽子のつばへと当たり、申し越しで取ることができそうだ。しかし、
 ズルッ
 そんな擬音がして、彼女の足元が崩れた。人間、足場がなければ立っていられない。バランスを崩し、彼女はあわれ池の中へと真っ逆さまだ。
 公園の池は人工池。岸からの距離とは関係なく、すぐさま深い構造になっている。
 彼女は運動が得意ではないが、泳げないということはない。だが、服を着て手の水泳は勝手が違った。
 服が重く纏わりつき、体がうまく動かない。最初はもがき、かろうじて水面に顔を出していたものの、すぐに力尽きた。水の中に沈んでいく最中、彼女が思ったのだ。
 死にたくないと。
 するとどうだろうか。不意に水の感触がなくなったと思うと、目の前に男が立っていたのである。
「その顔じゃあ、心当たりありってことだな。
 まあ、つまり譲ちゃんは、そのピンチなり、喪失感なりから逃げるためにプレインズウォーカーに目覚めて、次元の壁を越えちまったって分けよ」
「そんな、だって私は普通の……」
「今までは、普通だったけど、普通じゃなくなった。
 いいじゃねえか。体が悪くなった訳じゃなし。むしろプレインズウォーカーはいい事尽くめだぞ。
 人から見たら永遠ともいえる永い命。強靭な体。あと、魔法の使いに長けている。
 プレインズウォーカーに比べたら、他の魔法使いなんぞ、魔法の使い方を知らないようなもんだ」
 男は千雨を喜ばせようとしてか、プレインズウォーカーの利点を次々に挙げていくが、その一つ一つを聞くごとに千雨は落ち込んでいった。
 永遠ともいえる命?
 アニメやマンガでそういうものは不幸になると相場が決まっている。
 強靭な体?
 丈夫なことは結構だが、どこかの研究機関に目をつけられたらどうしたらいい。
 魔法の扱いに長けている?
 ああいうのは、フィクションの中だからこそ楽しいのだ。彼女には、仲間をともに冒険の旅に出る予定などない。
 もっとも、この否定的な意見は、彼女の普通でありたいという気持ちから生まれた被害妄想のようなものだ。
「なんだ譲ちゃん。もうホームシックか?
 心配すんな、俺が手伝ってやるから」
 だが、その様子を見知らぬ場所にいる心細さからくるものだけだと捉えたのか、千雨の頭をぽんぽんと落ち着かせるように叩いた。
「はあ、泣きそうな顔してんじゃねえよ。
 すぐに帰してやるから。そうだな、まず自分の故郷を想像してみろ」
 いつもの千雨なら、頭に置かれた手を振り払っていたことだろう。
 だが、少しでも安心した場所に行きたいという気持ちから、彼女は素直に従った。
「それじゃあ、いくぞ」
 男は言うな否や千雨を抱きかかえ、走り出し、跳んだ。
 向かう先は水面。静止する暇もない。
 千雨はぎょっと目を瞑り、息を止めるが、どうしたことだろう。予想した水の感触は訪れなかった。
「おい、譲ちゃん。
 目を開けてもいいぞ」
 男の言葉に恐る恐る目をあけると、そこには彼女の良く知る公園の姿があった。
 そこそこ手入れのされた花壇。公園の中央に陣取った池。それを囲うようにおかれたベンチのひとつには、飲みかけのジュースの缶が置かれていた。
「ここが譲ちゃんの世界であってるか?」
 涙が出てきた。ほんの30分も経っていないのに酷く懐かしい。
 後から後から涙があふれ、どうしてもとまらない。ついには声まで出して、泣いていた。
 どのくらいそうしていただろう。やがて心が落ち着くと、自然に涙は止まっていた。その間、男はやさしく頭をなで続けてくれていたのだが、そのことが今となっては凄く恥ずかしい。
「その、あ、ありがとう」
 赤い顔のまま、千雨はソッポをむいて礼を述べた。
「気にすんな。餓鬼のお守りは大人の仕事だ。
 今日のところはもう変えんな。風邪引くぞ。明日の朝にここで待ち合わせな」
 服はべちょべちょ。多少は火に当たって乾いたとはいえ、男の言うとおり、このままでは風邪を引いてしまうだろう。
 千雨は、最後に礼と別れの言葉を告げ、歩き始めるのだが……
「はあ!? 明日!?」
 素っ頓狂な声を上げた。
 別に男のことは嫌いではない。世話になったことを考慮に入れれば、好感を持っていると言えよう。だが、それとは別に、男との出会いはこれきりのような気がしていたのだ。
 アニメのヒーローが助けた子供に別れを告げて、颯爽と去っていくように、千雨はこの男が帰っていくものだと思っていた。
「なんだ、明日は都合が悪いのか?」
「え、いや、なんで?」
「なんでって、さっきも言ったが、餓鬼のお守りは大人の仕事だろう。
 魔法のマの字も知らない『成り立て』には、少しくらい魔法を教えてやらないとな」
「いやいやいや、魔法とかは別に教えてくれなくてもいいから。
 私は普通がいいんだ!」
「その普通というのが、何かは知らないが、ちゃんと知っておかないとまずいことになると思うぞ。
 またこんなことになっても、俺が居るとは限らんぞ。自分で戻ってこれるのか?」
「うっ」
「転移した世界に猛獣が居たら?」
「ううっ」
「譲ちゃんの世界には魔法がないんだろう? 見られたときに対処するには、手段が多いに越したことはないと思うがな」
「うううっ」
 男の言葉は的を得すぎており、ノーとは言えなかった。
 長谷川千雨は常識を好んでいる。だが、その常識を守るために、非常識にならなければいけないとは、なんとも皮肉なことか。
 こうして彼女は『普通』ではなくなったのだ。
  1. 2011/02/28(月) 12:07:14|
  2. 千雨はプレインズウォーカーになったようです。
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:4

ゲッソーは地球を救う

こんにちは。まーちんです。

景気が徐々に回復してきた今日この頃。いかがお過ごしでしょうか。

今年に入ってから不況のためずっと残業なし・定時退社していました。
なので完全に体が「定時慣れ」しちゃっています。

最近景気回復によりちょっとずつ残業することが増えてきたわけですが・・・

ちょっと残業するだけでしんどいorz

あれー、去年はもっとハイテンションで働けたんだけど・・・。
慣れって怖いですね。

・・早く帰りたいから、景気悪化は大歓迎・・(ボソ


さて、今サントリーのキャンペーンで、コーヒーを買うと
マリオカートWiiのフィギュア(おもちゃ)がついてきます。
意外とよくできてる上に、走ります!


kart



コンプリートしてしまった・・・。どこに置こうか・・・。
  1. 2009/09/13(日) 00:20:39|
  2. まーちん
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:5
次のページ

プロフィール

砂上工房(まーちん、亜枝月彦、別所有人)

Author:砂上工房(まーちん、亜枝月彦、別所有人)
リンクフリーです!
相互リンク大歓迎です!

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

カテゴリー

リンクツリー

ブログ内検索

RSSフィード

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

カウンター

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。